写真の歴史と盲点

写真の歴史と技術的進化

写真の歴史は、約200年前のジョゼフ・ニセフォール・ニエプスによる「用意された食卓」（1822年）や「ル・グラの窓からの眺め」（1826年頃）に始まる。これらはヘリオグラフィーと呼ばれる技法で、感光材料に画像を定着させた世界初の写真である。1839年、ルイ・ダゲールがダゲレオタイプを開発し、商業的な写真の普及が始まった。ダゲレオタイプは高精細だが複製が不可能だったため、1841年にウィリアム・ヘンリー・フォックス・タルボットがポジネガ法を用いたカロタイプを開発し、複製可能な写真を実現した。その後、サイアノタイプ、コロディオン法、ソルトプリント、アルビュメンプリント、銀塩フィルムなど、感光材料の進化が続き、20世紀には市販フィルムが普及。21世紀に入るとデジタル写真が主流となり、撮影の敷居が劇的に下がった。技術の進化は写真を撮影する層にも影響を与えた。黎明期の写真家は科学者だったが、カメラの小型化によりブルジョアジーや冒険家が写真を活用し、商業写真家やアマチュア写真家が生まれた。自動化カメラの登場は家族写真やスナップ写真を一般化し、デジタルカメラの普及は写真の大衆化と表現の多様化を加速させた。

保存性の課題　写真の盲点

写真の歴史は感光材料の感度向上やカメラの小型化に焦点を当てて発展してきたが、画像の長期保存性はほとんど考慮されてこなかった。たとえば、ニエプスの「用意された食卓」や「ル・グラの窓からの眺め」は、歴史的価値が高いにもかかわらず、画像の退色や劣化が進んでいる。古典技法の多く（サイアノタイプ、ソルトプリントなど）は、紙やガラスに感光材料を塗布するだけでバインダーがなく、紫外線や湿気による劣化が顕著である。私の実験では、顔料ベースのサイアノタイプですら、屋外の紫外線に数十日さらされると画像がほぼ消失した。日本の高温多湿な気候では、生物劣化（カビや虫害）も深刻な問題である。支持体として一般的に使われる紙は、酸性度が高い場合、数百年の保存が難しく生物劣化が高い。ダゲレオタイプの銅板は耐久性は高いが、表面の感光膜は傷つきやすく、長期保存には限界がある。このように、写真は「50年や100年」ではなく、「500年や1000年」の保存を保証する技術が欠如している。一方、油絵や日本画は、管理状態が良ければ、顔料の安定性や支持体の耐久性により、数百年の保存実績がある。フレスコ画に置いては紀元前2000年前のクノッソス宮殿の壁画であるフレスコ画が世界最古とされる。写真がこのレベルの耐久性を目指すためには、感光材料と支持体の両方で新たなアプローチが必要であると考える。

実験：保存性向上の研究　

写真の保存性を向上させるため、絵画技法を応用し、感光材料と支持体の耐久性を高める研究をする。

支持体支持体が1000年保存に耐える物を調査し、以下4つの候補をあげる。

金属

ダゲレオタイプが銅板を使用したように、ステンレス鋼やチタンを支持体とする。錆びにくく、生物劣化の影響を受けない。

セラミック

古代の陶器が1000年以上の耐久性を示すように、焼成されたセラミックは理想的な支持体である。衝撃で割れる危険はある。

紙

日本の和紙は酸性度が低く、1000年程の保存実績がある。生物劣化に弱い。

ガラス

ガラス板は、適切な保管では劣化が少ない。西洋の教会にあるステンドグラスのように数百年、または古代の遺跡から出土されるガラスは数千年という実績がある。ガラスは割れる危険が高い。　

２、実験　支持体の選択

２ー１　上記の支持体のなかで、セラミックに注目した。しかしセラミックに感光材料を直接塗るには何らか感光支持体が必要であり、支持体母体のセラミックとの接着材を必要とする。その接着剤において1000年保存に耐えれる素材を現在証明できるものはない。また感光液を直接塗布できる感光支持体が必要で、候補にフレスコ、石膏など吸水性と粘性をもつ素材をセラミッックに塗布。しかしフレスコは強アルアカリで、感光材料と化学反応して感光性を失う。次に耐久性はフレスコより劣るが、中性である石膏を採用。

2－２　接着剤を使わないセラミック支持体の構造

多孔質セラミックプレート　銀細工などの溶接プレートを検討

多孔質構造に石膏を流し込む事によって、将来劣化するであろう接着剤を使用せずとも構造的に支持体母体のセラミックと感光支持体の石膏を接合できる。

３、感光材料の選択

感光材料の選択感光材は塩化銀よりも化学的に安定しているサイアノタイプの鉄錯体（フェリシアン化鉄）を使い実験。サイアノタイプの感光最終成果物がプルシアンブルーと言われる顔料になる。基本的に安定した物質だが、紫外線による劣化対策は必要。

４、結果

石膏は感光液とも化学反応せず、良好に感光した。水洗い工程や、クエン酸による定着作業も支障なく出来た。色味が紙のプルシアンブルーとは違い、少しブルーグレーに偏る。観照的には美しい発色である。また、乾燥後は黒っぽく濁るが、もう一度水洗すれば鮮やかさを取り戻しその後は濁る事は無い。今後、感光層である石膏が紙と比べて２ミリから5ミリととても厚みがあるので感光液が深く浸透してるので水洗時間や定着方法を再検討する必要がある。

５、考察

６、今後の展望